RAMフェローの玄宇民によるシリーズ企画《語りかたのエクササイズ》の第8回目は、「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」展(2019/8/28ー11/11, 国立新美術館)に出展したミヤギフトシ氏、田村友一郎氏の2人のアーティストをゲストに招いた。2人の過去作の映像作品である『This Madhouse: Reading Zooey (and Other Stories) at Home』(ミヤギフトシ, 15min, 2016)、『MJ』(田村友一郎, 14min, 2019)を鑑賞し、その後、司会・玄宇民によるトークセッションが行われた。
本レポートでは、トークセッション内での三者の発言をもとに〈ナラティブの立ち上げかた〉をめぐる3つのトピックを取り上げる。
【1. 語りの当事者性】
ミヤギフトシは、沖縄における沖縄の男性とアメリカの男性の恋愛をテーマとしたプロジェクト『American Boyfriend』を発表してきた。《話しているのは誰? 現代美術に潜む文学》展に出展されたインスタレーション『物語るには明るい部屋が必要で』もそれに連なるものであり、ミヤギの小説『ディスタント』(2019, 河出書房新社)の内容ともリンクしている。『物語るには明るい部屋が必要で』の一つのポイントとして、個人的体験についてフィクショナルな登場人物に語らせることで自己との距離を創出している、とミヤギは述べる。語りの音声はささやくようであり、感情の表出については抑制的であるという。
ミヤギが個人的体験を土台としつつ、そこから距離をとることで詩的な空間を演出するのに対して、田村友一郎の作品は自らの当事者性を疑う。「話しているのは誰?現代美術に潜む文学」展に出展された『Sky Eyes』は「空目」をテーマとした作品であり、作品構想の資料には作家の「問題意識」について以下のように記されていた。
———「問題意識」を強く持ち合わせていない作品制作者においては、それらを起点にすることはできない。ただし、でっち上げは可能である。では、どこに立ち位置を定め、作品制作を行わなければならないのか。問題である。
田村が「でっちあげる」ところの「空目」とは、韻やメタファー、あるいは類似によるイメージの連結であるという。田村はテキストベースで作品を制作する作り手であり、その執筆の段階で韻・メタファー・類似によって言語とイメージを相関させる語りを立ち上げようとしている。
【2. 語りの手法】
韻・メタファー・類似による連結を重視する田村は、語りの主体を措定するよりも、モノの連結によってナラティブを立ち上げる。撮影・編集を他者に委ねるという田村の手法とも関わるかもしれない。映像内で特定の人物を語り手にせず、語りの音声はコンピューターの読み上げ機能に委ね、言語もサウンドとしての効果を上げやすい英語を使用することで、語るという行為そのものに対するメタ的な位置を確保しようとする。
他方、ミヤギは写真と映像が交差するようにイメージを鑑賞者に提示して、語りを多層化することを試みている。その結果、写真と映像による語りは小説という言語表現とは異なる語りの方法になっているという。
【3. 語りの密度】
RAMメンバーと議論になった主題の一つとして、「語りの密度」があった。小説と映像では、内容が共通していたとしても「語りの密度」に大きな違いがある、とミヤギはいう。ミヤギ自身の体感として、小説では隙間を作ることが困難であり、映像では厳密さがかえって弊害となることもある。文字で語る物語と映像で語る物語は明らかに異なるのであり、文字よりも「ノイズ」を孕む映像の特性が、かえって鑑賞者に思考を促すのではないか、という議論が交わされた。
映像を展示するというインスタレーションにおいて物語とは何か。通常、インスタレーションにおいて映像はループ再生されている。そのため、鑑賞者は物語を初めから終わりまで「読む」というよりも、映像イメージと、モノや場との関係性を通して、物語を立ち上げることになる。映像が内包するノイズや隙間は、インスタレーションという場において物語を想像的に編み出す余地になっているのだ。ミヤギと田村は、それぞれ異なる〈ナラティブの立ち上げかた〉を選択しながらも、語るという行為に対する批評的な眼差しを共有している。
(文責:西本 健吾[RAMプロジェクトマネージャー])
【開催概要】
日時 : 2019年10月28日[月]19:00 - 23:00 (作品上映 18:00 -)
会場 : コ本や honkbooks
主催 : 東京藝術大学大学院映像研究科(RAM Association)
助成 : 2019年度文化庁「大学における文化芸術推進事業」
ゲスト:ミヤギフトシ[現代美術作家], 田村友一郎[アーティスト]
司会 : 玄宇民[映像作家 / アーティスト]
企画:玄宇民
運営:佐藤朋子
記録:倉谷卓, 西本健吾
監修:和田信太郎