研修生・フェロー・スタッフを含めた約15名が9日間にわたり台湾に滞在したフィールド・サーヴェイ台湾編では、台湾現代美術の動向を探るべく、各地で開催中の芸術祭などを中心に巡りました。滞在2日目は、geidaiRAM2プロデューサーである高山明 / Port Bが2016年に制作した、台北・北投(ベイトウ)地区をバイクタクシーに乗って巡る演劇ツアーパフォーマンス作品《 北投ヘテロトピア 》を体験しました。
北投は、日清戦争後、台湾を植民地とした日本人が温泉地として開発し、性産業をも発展させたという歴史のある地区です。60〜70年代にはアメリカ兵の休暇プログラムの訪問地のひとつとして、そして、日本人サラリーマンの「慰安旅行」先として発展しました。
《 北投ヘテロトピア 》では、地元のドライバーが運転するバイクタクシーに乗って、7つの訪問地を順番に巡ります。1つ目は、バイクタクシーが集まるタクシーステーション。ここでは、作家の温又柔氏がPort Bのリサーチ成果に応答するかたちで書いた物語の朗読を聞きます。2つ目は、「鳳凰閣」という名の温泉旅館で、ここでは台湾の新世代文学の旗手・陳又津氏の物語を聞きます。3つ目は、「旧公娼検査所」です。ここは1966年以降、性病検査所として使われた病院で、性産業に従事する女性たちを主な検査対象としていたそうです。廃墟となった現在も、壁には十字のマークが描かれており、当時の面影を残していました。4つ目は、日本式の2階建ての温泉施設で、詩人の管啓次郎氏の物語を聞きました。5つ目は旧日本帝国陸軍が建てた病院、6つ目は「中心新村」、そして最後は、硫黄谷で台湾原住民文学を代表する作家であるワリス・ノカン氏による詩の朗読を聞きました。物語にも度々登場するバイクタクシーのドライバーに連れられて、北投の「ヘテロトピア=現実の中の異郷」を、実際の場所に訪れることで体感し、それぞれの物語に入り込んでいくツアーでした。
【参加者コメント】
佐藤貴宏(研修生2018)
「鳳甲美術館から階下へ下ると旧型のバイクに乗ったおじちゃんたちが7名、外で待っていました。こちらの不安を他所にその中のひとりのおじちゃんのバイクに股がった途端、心の準備の暇もなく急にツアーが始まりました。街を抜け北投エリアへ向かう道はなだらかな丘陵地帯で、植生の違う草木と見慣れない古い建物が緩やかに人の暮らしを形作っていました。7つのポイントを巡り、各箇所でその都度おじちゃんが提示するQRコードを読み取りました。それぞれの場所が持つ大まかな歴史記述と、個人の体験を基にした音声(+テキスト)を通して目の前の歴史の遺物と向き合うことになります。次第に台湾におけるその特定の場所、特定の個人に刻まれた歴史や傷を日本と私個人に歴史的に転化させられているように感じて、胸が苦しくなりました。そしてガイド役であり、その歴史の証人であるバイクのおじちゃんの後ろに股がり、一時的でも身体を寄せ命を託したことに希望を見出しもしました。」
日時 :2018年12月14日(金)
場所 :台北・北投エリア
写真:澤本望、田中沙季
参考リンク:
台湾国際映像芸術祭2016《 Negative Horizon 》出品作品
高山明 / Port B《 北投ヘテロトピア 》(2016)