「フィールド・サーヴェイ」シリーズでは、現在世界中の大都市に多くの移民や難民が流入し、独自のコミュニティを形成している背景から、移民・難民コミュニティをひとつのテーマとしてリサーチしています。研修生・フェロー・スタッフを含めた約15名が9日間にわたり台湾に滞在したフィールド・サーヴェイ台湾編では、滞在3日目、建築・都市史の観点から都市研究を行う陳穎禎(チン・エイテイ)氏をお招きし、北投ガイドツアーを行いました。単なる歴史解説が中心の街歩きとは異なる陳氏のガイドを通して、北投の旧集落を見ることで民族的な構成を知り、北投の都市がどのように拡張していったかという歴史の重なりを身体的に理解するツアーとなりました。
近年では主に台北のベットタウンあるいは観光地と認識されている北投は、元々は先住民が住んでいた地域で、硫黄の煙に包まれた北投の温泉が不可思議な雰囲気だったことから「魔女」や「巫女」という意味を持つ「Kipataw(キパタオ)」が元々の地名だったそうです。都市史の視点を持つ陳さんの解説で北投の街を歩くと、北投の街はいくつかの変換期を経て現在の街の連なりがつくられていることがわかりました。元々は先住民のテリトリーだったところに漢民族が入ってきて土地を開墾し、日本統治期は鉄道や警察、小学校などが日本人の手によってつくられました。
今回の北投ガイドツアーでは、戦後中国から渡ってきた軍関係者の流入で川沿いの農地に生まれた「眷村」という村の名残や、かつて漢民族による市場が開かれていて今もそのまま残っている廟などを見ながら歩きました。都市史の視点と共に街を歩いたことで、歴史の履歴が複雑に交差する場所で文化財指定をして建物を保存していく仕組みを利用しながら、街を更新していく方法論を同時に体感する時間となりました。古くから観光だけではなく流通の視点からも重要視され、風水的にも風が水のところにとまる場所として認識されている北投は、空間自体に多様性がある都市として興味深い場所です。
日時 :2018年12月15日(土)
場所 :台北・北投エリア
講師プロフィール:
陳穎禎(CHEN Yin-Chen / チン・エイテイ)
1981年、台北生まれ。建築・都市史研究者。日本明治大学理工学研究科建築専攻博士号取得(2017年3月)。専門は空間歴史論、領域論、文化財修復・保存と再利用。中央政府教育部が進める深耕計画や、台北芸術大学建築与文化資産研究所(大学院)にて、北投を対象にした都市調査で院生を指導する。台湾文化資産学会、台北芸術大学や台北科技大学などにて様々な研究プロジェクトに従事。
参加者コメント:
万里(研修生2018)
陳さんによるツアー&レクチャーは、台湾の歴史の重層性を再認識する契機となりました。個人的にインパクトがあったのは陳さんがレクチャーの中で使った「難民」という言葉でした。具体的には、第二次世界大戦後、第二次国共内戦を経て、共産党に破れた国民党の指導者層、軍、それに関わる人々が渡台し「台湾人」を支配する構造がもたらされるわけですが、そうした中国大陸から移り住んだ人々(の一部)を呼ぶ時に、陳さんは「難民」という言葉を使っていました。私はレクチャーの最後に、国民党とそれと共にやってきた人々(の一部)を「難民」と呼ぶのは台湾全体で共有されている感覚なのかと尋ねたところ、陳さんからの「もともと台湾に住んでいた人々(内省人)には共有されている」という答えを興味深く聞きました。狭義の「難民」を超えて、すべての民族移動や移民において「難民性」が内包される余地があることについて考えを巡らせました。
写真:澤本望
参考:
台湾を理解するために役立つ書籍・映画情報(陳穎禎さん推薦)
・雑誌『東京人』2014年8月号(台湾特集)
・ドキュメンタリー映画『台湾人生』『台湾万歳』(監督・酒井充子)
・『台湾Y字路さがし』