このプロジェクトを考えるにあたり影響を受けたものの⼀つに、沖島勲監督の『怒る⻄⾏』(2009)という映画があります。沖島監督が散歩をする。ただそれだけの映画なのですが、この映画について沖島監督は、“表現の基本、その欲求の根源になるようなものを、⾃分の個⼈的な体験を交えて話す”その講義録を映像で残したいと思った時、⾃然とその場所として⻑年の散歩道が選ばれてこの映画になったと語っています。
表現の根源を散歩の中に語れるということに、私⾃⾝にも⼼当たりがあります。⼦供の頃⽥舎を歩きながら聞かされていた⼟地の神話、⺠話、近所の⼈に起こった出来事、⽗の思い出話などをまるで同じ次元の話として聞いていたその感覚と聞きながら⾒ていた⾵景が、私の作品や撮る映像のフレームをかたち作っているという確信と⾔うと⾔葉が強いですが、まあそうだよなと。⾃然とそう思っているのです。
他⼈の当たり前ほど未知のものはありませんが、その当たり前を⼀度散歩に映す(移す)ことで互いを理解する助けに、またそれぞれにとっては⾃分⾃⾝の表現の根源を⾒つめ直す⼿段になるのではないか。というのが、このプロジェクトを進めるにあたっての⼀つの仮定であり、その理解と発⾒が新たな表現に結びつけば更に愉しい、というのが⼀つの⽬標です。
まずはそれぞれの散歩を報告し合うことから始めたいと思っています。この「散歩の報告会」をベースとして、その中で出会うものから個々のリサーチを広げて頂ければ。そしてプロジェクト全体としては、それぞれの散歩をその道の交わるところで結び、個であり同時に全体であるような、新しい地図のようなものが作れたら⾯⽩いのではと考えています。参加者皆で場を作り動かして⾏けたらと思うので、提案などもどんどん頂ければ嬉しいです。

飯岡 幸子[映像作家]
映画美学校にて佐藤真⽒に師事。監督作品に『オイディプス王/ク・ナウカ』『ヒノサト』。撮影スタッフとして参加した作品に、酒井耕・濱⼝⻯介監督『うたうひと』、杉⽥協⼠監督『ひかりの歌』等。2017 年 Kanzan gallery にて個展『永い⾵景』を開催。近年はリサーチャーとしての活動も。東京藝術⼤学⼤学院映像研究科修了。

【開催日時】
#1 オリエンテーション + 散歩の報告会 #1(2020.8.22)
#2 散歩の報告会 #2(2020.8.30)
#3 散歩の報告会 #3 + 散歩考 → フレーム考(2020.9.27)
#4 散歩の報告会 #4 + 散歩考 →○○考(2020.10.21)

2020-10-20|