飯岡 幸子 [RAM2フェロー/映像作家]

8月6日、仙台の東北リサーチ&アートセンター(TRAC)を訪問。TRACの運営にも関わっておられるアーティストの瀬尾夏美さん、小森はるかさん、また台湾から龔卓軍さん(国立台南藝術大学准教授)を迎えてリサーチラボを開催しました。

震災直後、小森さんと共に移住した陸前高田で、働きながら町を歩き町の人達の話を聞いて回っていた頃のことを、「町を身体の中につくって行く」「身体を鍛える」時間だったと話す瀬尾さん。その後時間を重ねるにつれ、被災地との関わり方、作品の作り方は変化してきたが、今また二人の活動が新しいフェーズに入っていると感じると言います。東北で得たリサーチや作品作りの手法を生かせないかと、被災地を扱うアーティストとしてではなく東京や他の場所へ呼ばれることも増えている。そうした仕事や新しい試みに対して、生活の拠点を置く仙台でのNOOK(※)の活動、続けているサロンや対話の場については、「時間をかけることができる場、早急に答えを求めない場」として考えているし、そうした場が必要だと感じているとのこと。

RAM2スタッフ田中沙季さんからのPortB『新・東京修学旅行プロジェクト』(※)についての報告では、プロジェクトが回を重ねリサーチをする人間が入れ替わりを繰り返す中で、メンバーがリサーチを通してどう集団になって行くのかという過程や、その態度のためにリサーチをしているのではないかと考えるようになったという話がありました。また同じく田中さんから、geidaiRAMが2016年に龔さんと台南で開催した「波のした、土のうえ」(※)の上映では、地震の被災直後だった寺院の広場に設営された上映会場で、地元の人達や日本から参加したメンバーの間で多くの対話がなされ、場や態度のためのリサーチ、と言う時と同じように、場のための上映になっていたという振り返りもされました。

会の最後には、RAM2フェローでアーティストの青柳菜摘さんから、蝶に関するリサーチから制作された映像作品『孵化日記』(※)についての発表があり、龔さんから、自分の場合は編集が得意なのでリサーチを本という形にして残すことが多いが、それぞれが、それぞれの方法で、リサーチしたことをどう変換するのかが重要だというコメントがありました。

単に情報を集めるだけではなく、どんな場をつくり、どんな人を呼び、どうそこを学びの場として行くのか。リサーチしたことをどう変換し、作品にし、残すのか。それぞれの参加者が今ある立場に根ざした言葉を交わす、まさにリサーチについてのリサーチの場となった仙台TRACでのリサーチラボでした。

※一般財団法人NOOK http://nook.or.jp/
※『波のした、土のうえ』 2014年/68分/日本/制作:小森はるか+瀬尾夏美
津波をうけた沿岸の町「陸前高田」で出会った人びとの言葉と風景の3年8ヶ月の記録から物語を起こすように構成された3編の映像。
※PortB『新・東京修学旅行プロジェクト』 http://portb.net/port-trc.net/about.html
※青柳菜摘『孵化日記』 http://datsuo.com/tagged/孵化日記

 

文責:飯岡 幸子
映画美学校にてドキュメンタリー映画監督の佐藤真氏に師事、映像制作をはじめる。東京藝術大学大学院映像研究科修了。監督作品に『オイディプス王/ク・ナウカ』『ヒノサト』。スタッフとして参加した作品に、安井豊作監督『Rocks off』、ペドロ•コスタ監督『何も変えてはならない』、濱口竜介監督『ハッピーアワー』、杉田協士監督『ひかりの歌』等。2017年、Kanzan galleryにて初の個展『永い風景』を開催。

 

【開催概要】
http://geidai-ram.jp/event/917/
日時:2018年8月6日(月)13:00-16:00
会場:東北リサーチとアートセンター(TRAC)
主催:東京藝術大学大学院映像研究科(geidaiRAM2)
助成:平成30年度文化庁「大学における文化芸術推進事業」
協力:一般財団法人NOOK
東北リサーチとアートセンター(TRAC)

企画進行:田中沙季
写真:村田萌菜

2018-08-06|