ポストドキュメンタリー、その芸術実践を目指して

 

東京藝術大学大学院映像研究科では、2018年度よりノンディグリープログラムとして「メディアプロジェクトを構想する映像ドキュメンタリスト育成事業」(通称、RAM Association: Research for Arts and Media-project)を実施しています。RAM Associationでは多様な芸術表現を目指し、自らの活動の幅を広げたい方々を研修生として募集します。

RAM Associationは、芸術の社会的な役割が問われているなかで、同時代芸術としての新たな問いを発見し、それをいかにして表現していくのか、先鋭な芸術表現とプロジェクト実践を探求する場になることを目指しています。映像表現やパフォーミングアーツなどの概念や技術を習得するだけではなく、アクチュアルな実践者たちが互いに学びあう機会を通して、表現行為をめぐって根源的な問いを立てていきます。2018「ポストドキュメンタリー」をテーマにして、従来の表現形式における伝え方を再考し、新しい枠組みをメディアプロジェクトとして構想していく実践的なプログラムです。映像ドキュメンタリストの名のもとに、RAM Associationでは創造的な活動を行うことのできる人材の育成を図っていきます。

RAM Associationに参加する研修生は、自らの研究や制作をもとにリサーチ、フィールドサーヴェイ、インタヴューといった同時代の諸問題を取り扱う方法論を探究し、都市やアジア太平洋地域を訪ねて活動を展開していきます。2019年度は様々な芸術実践のプロジェクトを立ち上げて、共に取り組むコレクティヴな活動によって、知見と経験を高めるプログラムを設けています。またRAM Associationは、大学といった研究機関や、アートセンター及び美術館といった文化施設、オルタナティヴ・スペースなど、国内外の芸術実践の現場と連携していくことで、学際的なプラットフォーム形成を目的にしており、研修生の活動を進展させていく機会を提供しています。2019年度から、名称がgeidaiRAM2から「RAM Association」に変更しました。

 

■ RAMプロデューサーより

 

21 世紀のグローバルな課題に向き合う芸術実践はインターネットなどの情報通信技術やディジタル技術の影響を強く受けながらも、切実で生々しい現実そのものへと向かっています。そうした中で、従来の芸術実践を大きく超えた、超領域的なコミュニケーションや実践のあり方が模索されています。諸領域を横断しながら、深く同時代の現実に関与する「新しいコミュニケーション論」が、これほどまでに待望された時代はなかったかもしれません。そこで、今年度のRAM Associationでは、分野横断とトランスローカルをめざす新たな芸術実践の可能性をめぐって「ポストドキュメンタリー」や「資本主義リアリズム」といったテーマを視野に入れながら、「新しいコミュニケーション論」をドキュメンタリストの専門性として追究します。

桂 英史(メディア研究・図書館情報学/東京藝術大学大学院映像研究科教授)

 

演劇は都市と密接に結びついています。古代ギリシャ時代、各都市国家に劇場があり、人々が集まって演劇を鑑賞し、町の状況を学び、今後のあり方を考察していました。そこに集まった人々が「市民」と呼ばれ、女性や未成年や奴隷や外国人は排除される限定的なものではありましたが、コミュニティのモデルになっていたわけです。
演劇というと「舞台」をイメージする方が多いかと思います。演劇の中心は舞台上の鑑賞物であり、観客はすべての注意力を舞台に注がれなければならない、と。この構造が完成したのは近代になってからで、その代表格がドイツのオペラ作家リヒャルト・ワーグナーです。観客は暗闇でひたすら舞台に平伏す存在になりました。その価値観は現代においても基本的に変わっていません。しかし、古代ギリシャにおいて「テアトロン」という言葉は「観客席」のことを意味していました。そのテアトロンが一般名詞になって、シアター、テアトロ、テアーター・・と各国語に変化していったわけです。そして「演劇」という単語もシアターを翻訳したものでした。
今、改めて演劇の構造や価値観を考え直すと、演劇の古くて新しい可能性が見えてくるのではないでしょうか。古代ギリシャ演劇の特徴に再注目するならば、演劇の可能性はもっと広がると思うのです。つまり、舞台ではなく「観客席」に目をやり、演劇を都市における集いと学びの場に変え、コミュニティ・モデルをつくりだす装置として活用すること。もちろん古代ギリシャとは都市のあり方もメディア環境も異なるので、現代都市への批判的考察やメディアの有効利用、多様性に富むコミュニティの創出といったことも考えねばなりません。そこにしっかり向き合い、工夫を重ねていくことを通して、演劇の根源に戻りながら新しい可能性を開拓していきたいと思っています。
私にとってRAM Associationはそうした実践の場です。

高山 明(演出家/東京藝術大学大学院映像研究科教授)

 


 

開講予定のプログラム

 

2018年度「メディアプロジェクトを構想する映像ドキュメンタリスト育成事業(geidaiRAM2)」活動風景

研修生は、以下にあげるプログラムに参加し、さまざまな知見と経験を得ながらセルフ・プロデュース能力と表現力の向上を図ります。プログラムは、各々の制作・研究に合わせて選択することができます。社会人で働きながらご自身のスケジュールに応じた参加が可能です。


■ メディア・スタディーズ
メディアや社会の特性を多角的に理解するレクチャー・シリーズ
*全5回[予定]

アートマネジメントの有用性が求められている中で、メディアテクノロジーや社会環境をどう捉えるかだけではなく、そこにどう問いを見出しいくかといった批評性を獲得していくことがレクチャー・シリーズの狙いです。常に変動しつづける世界を確実に捉えて応答していくにはどうすればよいか。メディアや社会を理解する困難さに迫っていくことで、研修生が各自の活動の意味に自覚的になり、社会規範や制度の歴史を探求していきます。基礎的な知識を講義で補充していきながら、研修生は個々の課題を提示し、講師との対話を重ねていく議論を重視したレクチャーです。同時代の諸問題と向き合い、未踏のメディア表現を切り開く実践について議論していきます。
[参加形式:講座]月1回程度開講予定(14時〜19時)

 

■ テーマ開発
テーマを開発する技術と実現プロセスに着目すオープン・レクチャー企画
*全5回[予定]

芸術表現に取り組むにあたり、作家に関わらずテーマ(主題)を見出すことは不可欠であり、都市や社会に潜在する問題をどのように考えていくか、どのように社会に投げかけていくか、その切り口としてもテーマ開発は無視できません。本プログラムでは、様々な専門家や芸術における実践者たちを招聘し、対話形式のディスカッションを研修生自らがオープン・レクチャーとして企画していきます。テーマ開発をする柔軟な能力と、企画をリアライズする実践的な学習によって、より切実な問題意識を見出していくことを目指しています。オープン・レクチャーは、一般公開で同時代的な問題を深める場とし、研修生はそのドキュメントを制作していきます。
[参加形式:企画運営、オープン・レクチャー]月1回程度開催予定(18時〜21時)

 

■芸術実践ゼミナール
調査研究/共同調査/活動報告/理論構築
*月2回定期開催[予定]

研修生自らの活動(制作、研究、企画、マネジメント)をアクチュアルな実践として展開していくために、ゼミナール形式で各自の発表を定期的に行い、自己の立ち位置や表現手法に関しての理解を深めて学術的な知見を習得していきます。映像表現やパフォーミングアーツを用いた表現が増加していくなかで、「芸術実践」や「ポストドキュメンタリー」については議論が少なく、人文諸科学に準拠する言説が多いことは否めません。リサーチをめぐる研究会(リサーチラボ)、リーディングセッション(輪読会)、ビューイングプログラム(展覧会や上映会の企画者との議論)、芸術動向調査の4つの場を通して、芸術をめぐる議論を深めていきます。
[参加形式:ゼミナール、ラウンドテーブル、フォーラム]月2回程度開催予定(14時〜20時)

 

■ フィールド・サーヴェイ&インタヴュー
芸術実践のための実地調査と対面調査
*プロジェクトごとに順次開催

日本を含むアジア圏、または環太平洋地域において芸術をどう理解していくか、その理論と実践が問い直されている中で、実際に現地を訪問し、フィールドサーヴェイ(実地調査)とインタヴュー(対面調査)に取り組んでいきます。調査は他者との相互作用に基づくものであり、現場での関係形成や身振り、インフォーマント(情報提供者)に何を求めるのか、またそれをいかに芸術表現にしていくのかといった倫理が常に問われています。他者を表象すること、その表現の難しさをめぐって、各自がいかにリサーチ対象を見出し、場所のコンテクストを理解していくのか、芸術実践のための実地調査と対面調査を経験していきます。
[参加形式:プロジェクトワーク]実地調査期間4日程度(1エリアあたり)、7月以降開催予定

 

■ RAMプラクティス
現実や事実を再構成する手法を見出し、新たな芸術実践を構想する

RAMプラクティスでは、大きく2つの枠組みを今年度は設けました。1つは、展覧会や上映会の実施。研修生の活動を対外的に発信していくための場として、作品及び企画のプランニングやプロポーザルを作成し、他のプログラムと連動しながら、展覧会や上映会の形式で発表することを目指します。もう1つはコレクティヴな活動です。ポストドキュメンタリーやリサーチベースト・アートの言説を敷衍して、映像のワークショップや、メディアプロジェクトを開発する実験的な試みに挑戦します。コミュニティや新しい伝え方をめぐって議論を深めながら、映像メディアを使った先駆的な実践を取り組みます。
[参加形式:上映会、展覧会、プロジェクトワーク]プロジェクトごとに通年

 


 

■RAM プロデューサー
桂 英史(メディア研究・図書館情報学/東京藝術大学大学院映像研究科教授)
高山 明(演出家/東京藝術大学大学院映像研究科教授)

■RAM シニアフェロー
今福龍太(文化人類学者・批評家/東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)

■RAM ディレクター
和田信太郎(メディアディレクター/東京藝術大学大学院映像研究科助教)

 


 

募集要項

研修期間|2019年6月15日〜2020年3月末まで
定員|20名程度
教材費 |50,000円
※実地調査に関する費用(旅費・宿泊費など)、制作費はご負担ください。
応募方法|応募フォームより必要事項を記載してください。
募集期間|2019年5月17日(金)~5月30日(木)23:59締切
合否通知|2019年6月2日(日)
選考方法|事務局による書類審査により決定。結果はメールで通知します。
初回オリエンテーション|2019年6月15日(土)14時〜
※会場は合格者にのみ後日メールでお知らせ致します。
お問い合わせ|geidairam@gmail.com

※応募は締め切らせていただきました。

 


 

メディアプロジェクトを構想する映像ドキュメンタリスト育成事業
2018年度(geidaiRAM2)活動紹介

geidaiRAM2ウェブサイト http://geidai-ram.jp/

geidaiRAM(1期/リサーチプロジェクトのための人材育成事業)活動紹介

2016年度  https://youtu.be/bK4NKj8Tc5o
2015年度  https://youtu.be/PYMlg5UctqQ
2014年度  https://youtu.be/Kd7XkhxxlgU

geidaiRAM(1期) ウェブサイト http://geidai-ram.jp/ram1/